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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)12707号 判決

原告

福田節子

ほか三名

被告

田中望

ほか二名

主文

一  被告田中望、同株式会社ヒロタは、各自、原告福田節子に対し一億二一四七万八〇三二円、原告岩渕治子、同福田恒子、同内田祥子に対し各一二五五万三一一三円、及び右各金員に対する昭和六〇年八月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

二  被告安田火災海上保険株式会社は、原告福田節子の被告田中望、同株式会社ヒロタに対する本判決が確定したときは、同原告に対し一億二一四七万八〇三二円及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告岩渕治子の被告田中望、同株式会社ヒロタに対する本判決が確定したときは、同原告に対し一二五五万三一一三円及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告福田恒子の被告田中望、同株式会社ヒロタに対する本判決が確定したときは、同原告に対し一二五五万三一一三円及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告内田祥子の被告田中望、同株式会社ヒロタに対する本判決が確定したときは、同原告に対し一二五五万三一一三円及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

三  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告福田節子に生じた費用を一〇分し、その三を同原告のその余を被告らの各負担とし、原告岩渕治子、同福田恒子、同内田祥子に生じた費用を一〇分し、その四を右原告三名のその余を被告らの各負担とし、被告らに生じた費用を一〇分し、その七を被告らのその余を原告らの各負担とする。

五  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告田中望(以下「被告田中」という。)、同株式会社ヒロタ(以下「被告ヒロタ」という。)は、各自、原告福田節子(以下「原告節子」という。)に対し一億六六九三万〇四四一円、原告岩渕治子(以下「原告治子」という。)、同福田恒子(以下「原告恒子」という。)、同内田祥子(以下「原告祥子」という。)に対し各二〇九九万四〇四八円、及び右各金員に対する昭和六〇年八月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

2  被告安田火災海上保険株式会社(以下「被告安田火災」という。)は、原告節子の被告田中、同ヒロタに対する本判決が確定したときは、同原告に対し一億六六九三万〇四四一円及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告治子の被告田中、同ヒロタに対する本判決が確定したときは、同原告に対し二〇九九万四〇四八円及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告恒子の被告田中、同ヒロタに対する本判決が確定したときは、同原告に対し二〇九九万四〇四八円及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告祥子の被告田中、同ヒロタに対する本判決が確定したときは、同原告に対し二〇九九万四〇四八円及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六〇年八月三日午後六時ころ

(二) 場所 東京都墨田区向島一丁目三番地先路上

(三) 加害車両 普通貨物自動車(足立四六す六五七)

右運転者 被告田中

(四) 事故態様 被告田中が加害車両を運転して、前記場所を進行中、進路前方の横断歩道上を横断歩行中の訴外亡福田龍三(昭和二年一二月二八日生まれ。以下「亡龍三」という。)に衝突し、このため亡龍三は、同日午後九時三七分ころ、東京都墨田区江東橋四丁目二三番一五号墨東病院において、全身打撲に基づく頭胸腹部臓器損傷により死亡した。

(右事故を以下「本件事故」という。)

2  身分関係

原告節子は、亡龍三の妻であり、原告治子、同恒子、同祥子は、亡龍三の姉妹であつて、原告らは、亡龍三の死亡により、法定相続分に従い、原告節子四分の三、原告治子、同恒子、同祥子各一二分の一の割合で亡龍三を相続した。

3  責任原因

(一) 被告田中は、加害車両を、制限速度の時速四〇キロメートルを超える時速約七〇キロメートルの高速で運転し、かつ、前方不注視により、直線で見通しの良い道路の横断歩道を歩行中の亡龍三に衝突させるという過失により本件事故を発生させたものであるから、民法第七〇九条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。

(二) 被告ヒロタは、加害車両を所有し、これを自己の従業員である被告田中に運転させていたもので、加害車両を自己のため運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法第三条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。

(三) 被告安田火災は、被告ヒロタとの間で、加害車両を被保険自動車とし、本件事故発生日を保険期間内とする対人賠償保険金額無制限の自家用自動車保険契約を締結しているから、原告らの被告田中、同ヒロタに対する本判決の確定を条件として、当該原告に対し、損害額の支払をなすべき義務がある。

4  損害

(一) 逸失利益 二億〇四九二万八五八六円

亡龍三は、死亡当時満五七歳の健康な男子で、東京都港区赤坂四丁目九番二二号の虎やビル内において、「福田クリニツク」の名称で診療所を開業する内科医師であつたもので、本件事故の前年である昭和五九年の経費控除後の稼働収入は、年額四〇八二万九七〇七円であつたから、本件事故で死亡しなければ、満六七歳まで右年収と同額の収入を得られたはずである。

また、亡龍三は、妻である原告節子及び同女の実父である落合義一を扶養していたので、亡龍三の生活費は収入の三五パーセントを越えることはない。

よつて、右収入を基礎とし、生活費として三五パーセントを控除したうえ、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡龍三の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は二億〇四九二万八五八六円(一円未満切捨)となる。

4082万9707×(1-0.35)×7.7217=2億0492万8586

原告らは、亡龍三の逸失利益を原告節子四分の三、原告治子、同恒子、同祥子各一二分の一の割合で相続したから、各自の取得額は、原告節子一億五三六九万六四三九円(一円未満切捨)、原告治子、同恒子、同祥子各一七〇七万七三八二円(一円未満切捨)となる。

(二) 葬儀関係費 二九八万四〇〇〇円

原告節子は、亡龍三の葬儀を行い、これに二九八万四〇〇〇円を支出した。

(三) 慰藉料 合計三五〇〇万円

亡龍三は、一家の支柱でありながら、生命を奪われたものであり、亡龍三と原告節子の間には子がなく、原告節子は、亡龍三の死亡により多大の精神的苦痛を被つた。

また、原告恒子は、亡龍三の経営する内科診療所に勤務して生計を維持していたもので、同人の死亡により、生活の基盤を奪われたうえ、原告治子、同祥子とともに、唯一の男性の肉親を失い、多大の精神的苦痛を被つた。

以上のとおり、生命を奪われた亡龍三の精神的苦痛及び亡龍三の死亡によつて原告らの被つた精神的苦痛は極めて大きく、原告らの亡龍三の慰藉料の相続分及び原告ら固有の慰藉料を合わせると、本件における慰藉料としては、原告節子分二〇〇〇万円、原告治子、同恒子、同祥子分各五〇〇万円がそれぞれ相当である。

(四) 弁護士費用 合計一二〇〇万円

原告らは、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告ら訴訟代理人らに本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬として、原告節子において九〇〇万円、原告治子、同恒子、同祥子において各一〇〇万円を支払う旨約した。

(五) 損害のてん補 合計二五〇〇万円

以上の原告らの損害額は、原告節子一億八五六八万〇四三九円、原告治子、同恒子、同祥子各二三〇七万七三八二円となるところ、原告らは、本件事故による損害に対するてん補として、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から合計二五〇〇万円の支払を受け、これを原告節子一八七四万九九九八円、原告治子、同恒子、同祥子各二〇八万三三三四円宛各自の損害に充当した。

5  よつて、原告らは、本件事故による損害賠償として、被告田中、同ヒロタ各自に対し、原告節子において一億六六九三万〇四四一円、原告治子、同恒子、同祥子において各二〇九九万四〇四八円、及び右各金員に対する本件事故発生の日である昭和六〇年八月三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告安田火災に対し、原告節子において、同原告の被告田中、同ヒロタに対する本判決の確定を条件として、一億六六九三万〇四四一円及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告治子、同恒子、同祥子において、当該原告の被告田中、同ヒロタに対する本判決の確定を条件として、各二〇九九万四〇四八円及び右各金員に対する当該判決確定の日の翌日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の各事実及び被告らに責任があることは、いずれも認める。

2(一)  同4の(一)の事実中、亡龍三の昭和五九年の経費控除後の稼働収入が年額四〇八二万九七〇七円であつたこと、同人が、本件事故で死亡しなければ満五七歳から満六七歳まで稼働可能であつたことは認め、原告ら主張の生活費割合は争う。

(二)  同(二)の事実は不知。

仮に、原告節子が主張のとおりの葬儀費用を支出したとしても、被告らに請求しうべき金額としては八〇万円が相当である。

(三)  同(三)の事実中、亡龍三と原告節子の間には子がないこと、亡龍三は、一家の支柱であつたこと、原告恒子は、亡龍三の経営する内科診療所に勤務して生計を維持していたことは認めるが、主張の慰藉料額は争う。慰藉料は、総額二〇〇〇万円が相当である。

(四)  同(四)の事実は不知。

(五)  同(五)の損害てん補の額及び充当関係は認める。

3  同5の主張は争う。

三  被告らの主張

亡龍三の逸失利益を算定するに当たつては、同人の収入が極めて高額であつたことに鑑み、同人の昭和五九年分の所得税一六〇四万一一〇〇円及び地方税五三五万六一三〇円を同人の収入額から控除した残額一九四三万二四七七円を基礎として算定すべきである。

すなわち、損害賠償法の目的、理念は、被害者に生じた実質的な損害の公平な分担にあるから、逸失利益の算定に当たつては、被害者の失つた実質的な利益(可処分所得)の賠償をもつて足りると解すべきである。

また、人により能力、所得に格差があるとはいえ、人の命の値段に極端な差異が生じるのは妥当ではないから、損害賠償額の算定に当たつては、高額所得者については税金を控除し、低額所得者については税金を控除しない方法を採用することにより、賠償額の不平等をできる限り縮小するのが合理的である。

そして、損害賠償は、被害者をして事故がなかつた場合と同様の財産状態の回復を目的とするものであつて、事故がなかつた場合以上に積極的に財産を増加させるものではないところ、もし、亡龍三の逸失利益算定に当たり、税額を控除しないとすると、損害賠償により事故がなかつた場合以上に財産を積極的に増加させ、原告らに不当な利得を得させることになるものである。

さらに、所得税法第九条第一項第二一号は、対人損害賠償金を非課税所得としているが、右規定の趣旨が被害者の保護にあるとしても、これは損害賠償額の算定にあたつて税金を控除しないことの根拠になるものではなく、損害賠償額算定方法は、賠償金に課税されないことをも考慮したうえ、加害者、被害者間の公平を維持するためにいかなる額を加害者に支払わせるのが妥当かという損害賠償法固有の観点から決すべきことであり、税法の立法趣旨以前の問題であるから、右規定は、いわゆる控除説を採用することの妨げとはならないものである。

四  被告らの主張に対する原告らの反論

所得税法第九条第一項第二一号は、対人損害賠償金を非課税所得としているところ、もし、税金の控除を認めると、加害者は、税金相当額について不当に利得することになるが、所得税法が、このような不当な利得を加害者に取得させるために、右規定を設けたものとは到底解することができず、同法は、被害者の救済を十全ならしめるため、対人損害賠償金を非課税所得としているものであつて、同法の趣旨に照らすと、逸失利益の算定に当たり、税額を控除しないのが相当というべきである。

そして、いわゆる税金控除説は、逸失利益の本来の意味を忘れ、高額所得者に対する賠償を不十分ならしめるものであつて、妥当でないものというべきである。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)、同2(身分関係)、同3(責任原因)の各事実及び被告らに責任があることは、いずれも当事者間に争いがない。

二  次に、損害について判断する。

1  逸失利益 一億五七六三万七三七四円

(一)  請求原因4の(一)の事実中、亡龍三の昭和五九年の経費控除後の稼働収入が年額四〇八二万九七〇七円であつたこと、同人が、本件事故で死亡しなければ、満五七歳から満六七歳まで稼働可能であつたことは、当事者間に争いがない。

原本の存在と成立に争いのない甲第一号証の一、二、第一〇、第一一号証、原告節子本人の尋問の結果により原本の存在と成立を認める甲第一二号証、原告節子本人の尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第一三号証及び原告節子本人の尋問の結果によれば、亡龍三は、昭和二年一二月二八日生まれで死亡当時満五七歳の健康な男子で、東京都港区赤坂四丁目九番二二号の虎やビル内において、「福田クリニツク」の名称で診療所を開業する内科医師であつたこと、亡龍三は、妻である原告節子及び同女の実父である落合義一を扶養していたほか、姉である原告治子に生活費を援助し、妹である原告恒子を「福田クリニツク」において雇用し、同女に給与のほか生活費として月額五万円程度の生活費を援助していたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右の事実によれば、亡龍三は、本件事故で死亡しなければ、満六七歳まで正常に稼働し、その間、前示の年収と同額の収入を得られたはずであり、また、亡龍三の収入額が一般に比較して極めて高額であつて、その支出しあるいは負担すべき諸経費も少なくないと考えられる一方で、右のような扶養ないし生活費援助の関係が認められること等の事情を総合勘案すると、亡龍三の収入から控除すべき生活費の割合は五〇パーセントとするのが相当と認められるから、右収入を基礎とし、生活費として五〇パーセントを控除したうえ、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡龍三の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は一億五七六三万七三七四円(一円未満切捨)となる。

4082万9707×(1-0.5)×7.7217=1億5763万7374

そして、原告らが、亡龍三を原告節子四分の三、原告治子、同恒子、同祥子各一二分の一の割合で相続したことは当事者間に争いがないから、右認定の逸失利益に対する原告らの相続取得額は、原告節子一億一八二二万八〇三〇円(一円未満切捨)、原告治子、同恒子、同祥子各一三一三万六四四七円(一円未満切捨)となる。

(二)  なお、被告らは、亡龍三の逸失利益を算定するに当たつては、同人の収入が極めて高額であつたことに鑑み、同人の昭和五九年分の所得税一六〇四万一一〇〇円及び地方税五三五万六一三〇円を同人の収入額から控除した残額一九四三万二四七七円を基礎として算定すべきである旨主張する。

しかしながら、被害者が、その稼働によつて取得した収入から、いつ、誰に、いくらの税金を納入するかは、専ら立法政策によつて決められる被害者と課税権者との関係にとどまり、加害者とは関係のない事柄であるから、加害者としては、被害者がその稼働によつて取得していた収入の全額を賠償しなければならないものとして、被害者が事故に遭遇しなければ取得していたであろう収入額を回復させるのが、損害賠償法の根本理念である原状の回復の観点から相当というべきであり、また、加害者が被害者の収入の全額を賠償したのち、被害者ないしその遺族が取得した損害賠償金に対して、課税がなされるか否かは、これまた立法政策によつて決められる被害者らと課税権者との関係にすぎず、加害者の損害賠償額とは別個の事項というべきであるから、現行法において損害賠償金に対して課税されていないことから、損害賠償額の算定にあたつて収入額から税額を控除すべきであるということはできないものというべきである。

したがつて、被告らの右主張は、採用することができない。

2  葬儀関係費 一〇〇万円

原告節子本人の尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第三ないし第五号証、第六号証の一、二及び原告節子本人の尋問の結果によれば、原告節子は、亡龍三の葬儀を行い、葬儀関係の諸費用として二九八万四〇〇〇円を支出したことが認められるところ、前示の亡龍三の年齢、職業、家庭の状況等の諸事情に照らすと、本件事故と相当因果関係のある葬儀関係費用としては、一〇〇万円をもつて相当と認める。

3  慰藉料 合計二〇〇〇万円

原告節子本人の尋問の結果によれば、亡龍三は、原告ら家族・親族間で精神的にも経済的にも中心的役割を果たしていたものであり、生命を奪われた亡龍三本人の精神的苦痛及び原告節子が夫である亡龍三の死亡により被つた精神的苦痛は極めて大きいものと認められ、右認定に反する証拠はなく、これに前示の亡龍三の年齢、職業、家庭の状況、その他本件において認められる諸般の事情を総合すると、亡龍三の被つた精神的苦痛に対する慰藉料としては一二〇〇万円、亡龍三の死亡により原告節子が被つた精神的苦痛に対する慰藉料としては、八〇〇万円をもつてそれぞれ相当と認める。

そして、原告らが、亡龍三を原告節子四分の三、原告治子、同恒子、同祥子各一二分の一の割合で相続したことは当事者間に争いがないから、右認定の亡龍三の慰藉料に対する原告らの相続取得額は、原告節子九〇〇万円、原告治子、同恒子、同祥子各一〇〇万円となる。

なお、前示の原告治子、同恒子、同祥子と亡龍三との身分関係、家庭の状況及び原告節子本人の尋問の結果によると、原告治子、同恒子、同祥子の被つた精神的苦痛も甚だ大きいものと認められるが、右原告三名は、亡龍三の姉妹であつて民法第七一一条所定の者にあたらず、また、本件全証拠によるも右原告三名を同条所定の者と同視すべき生活関係を認めるに足りないところ、本件においては、亡龍三本人の慰藉料として相当額が認められ、右原告三名にはこれに対する相続分が認められているほか、同条所定の者として原告節子に相応の慰藉料が認められていることを考慮すると、原告治子、同恒子、同祥子の固有の慰藉料の請求は理由がないものといわざるを得ない。

4  損害のてん補 合計二五〇〇万円

以上の原告らの損害額は、原告節子一億三六二二万八〇三〇円、原告治子、同恒子、同祥子各一四一三万六四四七円となるところ、原告らが、本件事故による損害に対するてん補として、自賠責保険から合計二五〇〇万円の支払を受け、これを原告節子一八七四万九九九八円、原告治子、同恒子、同祥子各二〇八万三三三四円宛各自の損害に充当したことは、当事者間に争いがないから、損害の残額は原告節子一億一七四七万八〇三二円、原告治子、同恒子、同祥子各一二〇五万三一一三円となる。

5  弁護士費用 合計五五〇万円

原告節子本人の尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第九号証、原告節子本人の尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告ら訴訟代理人らに本訴の提起と追行を委任し、その報酬として、原告節子において九〇〇万円、原告治子、同恒子、同祥子において各一〇〇万円を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟の難易、審理経過、前示認容額、その他本件において認められる諸般の事情を総合すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、原告節子分四〇〇万円、原告治子、同恒子、同祥子分各五〇万円をもつてそれぞれ相当と認める。

三  以上によれば、原告らの被告らに対する本訴請求は、本件事故による損害賠償として、被告田中、同ヒロタ各自に対し、原告節子において一億二一四七万八〇三二円、原告治子、同恒子、同祥子において各一二五五万三一一三円、及び右各金員に対する本件事故発生の日である昭和六〇年八月三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告安田火災に対し、原告節子において、同原告の被告田中、同ヒロタに対する本判決の確定を条件として、一億二一四七万八〇三二円及びこれに対する同判決確定の日の翌日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告治子、同恒子、同祥子において、当該原告の被告田中、同ヒロタに対する本判決の確定を条件として、各一二五五万三一一三円及びこれに対する当該判決確定の日の翌日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林和明)

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